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マンガ

『3月のライオン』と『三月のライオン』

2008-03-11羽海野チカがヤングアニマルに連載している漫画、『3月のライオン』。

この一瞬意味不明ながら、魅力的なタイトルは、英語の諺に由来している。

“March comes in like a lion and goes out like a lamb.”――(意訳)3月はライオンのような嵐とともにやってきて子羊のように穏やかに去っていく。

西洋で生まれた言葉をそのまま日本の環境に当てはめて考えるのは間違いかもしれないが、なるほど日本の3月も、激しい強風とともに訪れ、春のような穏やかな陽気とともに去っていく。

ところで、このフレーズを題名に使った作品が、もうひとつ存在している。矢崎仁司監督によって1992年に撮られた映画、『三月のライオン』である。

漫画『3月のライオン』と映画『三月のライオン』。

タイトルこそよく似ているが、両作品に直接的な関係はない。ストーリーも登場人物も、年代設定も、いずれも異なっている。

だが、2つの作品には、どこか似た感じのにおいが、漂っている。

『3月のライオン』の桐山零と、『三月のライオン』のハルオ。

彼らはともに、鉄筋コンクリートのビルの、がらんとした部屋に住んでいる。部屋には家具も寝具もなく、まるで生活感が感じられない。彼らは、栄養のありそうな食事をほとんどとらないし、趣味はなく、娯楽に興じるわけでもない。零は過去の記憶を自ら亡くそうとしており、対するハルオは本当に記憶を喪失してしまっている。

ハルオと零。2人は互いに、都市の際みたいなぎりぎりの所で立ちつくしている。彼らの存在感は希薄で、ひとたび強い風が吹けば、都市の際から都市を囲む深い崖へと、落っこちていってしまいそうである。

両作品には、そんな“際”から見たときの都市の風景が、度々描かれているのだ。

映画『三月のライオン』は、設定上、新宿から徒歩圏内のエリアを舞台にしているようだ。ハルオのすみかは、きっと東中野あたりにあって、ハルオと彼のたった一人の身寄りである妹は、新宿や中野付近の路地裏を、いつもいつもぶらぶらしている。妹が繁華街でパンツを履き替えるシーンがあるが、これは新宿の三越裏付近で撮られている。ときどき彼らは、駄菓子屋の老夫婦の家に遊びに行くが、その裏庭からは神田川が見えて、神田川の向こうには、新宿の高層ビルがそびえ立っている。ここはきっと、中野区の末広橋あたりだろう。

細かいロケ地を取り上げようとすれば、ほかにもいくつか判別できるところもある。ハルオの妹が橋の欄干に乗って、今にも落ちそうになりながら危なっかしく揺れ動くシーンは、北池袋の陸橋で撮られているみたいだし、ハルオが住んでいる線路上に建つ共同住宅は、きっと都営三田線の志村車庫上にある交通局住宅だろう。これらは映画自体の舞台設定とは無関係であるかもしれない。だが、いずれにしろ、この映画の多くのシーンが東京の西側で撮られており、その土地性が映画全体の雰囲気を良い意味で規定していると思う。

対する漫画『3月のライオン』は、隅田川の下流、佃島を舞台にしている。零の住むマンションの大きな窓からは、隅田川が見える。さらに、中央大橋や大川端リバーシティ、月島駅あたりの景色が、漫画中に度々登場する。零は高校生にしてプロの棋士で、千駄ヶ谷の将棋会館に通っているのだが、対局がある日だけは隅田川沿いに上流へとさかのぼって、両国あたりから総武線に乗るらしい。漫画は、映画とは逆のエリア、つまり東京の東側を舞台にして描かれている。

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