雨上がりの休日。川崎市岡本太郎美術館で開催されていた、第10回 岡本太郎現代芸術賞展に行ってきました。刺激的な作品が多かったのですが、特に印象に残った2つの作品について、書こうと思います。
・松本真由子『次の日も日曜日』
鶏 肉、牛肉、ムネ肉、モモ肉、しゃぶしゃぶ用の肉、骨付き肉…。キャンバスいっぱいに並べられた(描かれた)まさしく肉感的な肉。その間のところどころに、 モデルハウスのようにきれいな新興住宅地の一戸建てと、魚よりも肉が好きそうな人たちが描かれている強烈な絵だ。肉の間に立つ女子高生は日曜日なのに制服 を着ていて(彼女たちは、ダイエットのために肉を食べることをやめたこともあったが、今はまた食べている)、小学生二人は顔のパーツがはっきりとせず(肉 を食べ過ぎたためだ)、さらに犬をつれて歩くホリデーパパもいる(金曜の夜は焼き鳥をたべていたのに、日曜の夜や家族で焼肉を食べるつもりらしい)。
肉はいつでもどこでも、豊富に供給される。近所のスーパーに、肉屋に、ハンバーガーショップに、ステーキハウスに、コンビニに、薬局に、ケーキ屋に、文房具屋に、クリーニング屋に、酒屋に、駅に、路地に、道端に、家の中に、どこにだって!
こ れは私たちの夢なのだ。平穏で日常的で、資本主義的で飽食ぎみの、つまり安心で快適で安全な食生活と(もちろん、メニューは肉が中心だ)、それによって得 られる快適な休日、やすらぎ、壊されない家族関係へのささやかな夢なのだ。つまりこの絵に描かれた人々は、次のように考えていることになるのだろ う。(もっともこれほど意識的ではないだろうけれども。)
「日曜日はすばらしい。だって平穏な日曜日には、リストラの辞令も出されなければ、落第を言い渡されることもないから。肉を食べていれば、ささやかな幸せはいつまでも維持できる。」
肉を食べる平穏な日曜日を、私たちは望んでいる。そして次の日もまた、肉を食べる日曜日であればいいと思っている。やがてすべての肉を食べ尽くしたとしても、すぐに次の肉が供給されるだろう。かつて平日に稼いでおいた金と、地球上の畜産資源が枯渇せずに残っている限りは。
・菱刈俊作『スペシャルグリッド&アザーストーリーズ』
壁 一面に貼られた大きな紙の上には、曲線によって構成された格子状の柄が広がっている。しかしその格子を構成する曲線は、鉛筆やペンや絵筆によって直接紙の 上に描かれたものではない。その有機的に曲がりくねった線は、売店やコンビニで販売された、幾多ものエロ漫画に描かれた女体の輪郭線だったのだ。
作 者は漫画誌から、女体の輪郭線がプリントされた膨大な数のコマを破り取り、ザラ紙やグラビアにプリントされたその有機的な曲線がうまくつながるように切り 貼りして作品を制作したと思われる。エロ漫画に登場するキャラクターの肉体を構成していた曲線は、疑似肉体の構成要素としての役目を失い、若干肉感的では あるが概ね幾何学的な格子模様の一部に組み込まれてしまう。ところどころに貼り付けられたグラビアの乳首も、離れた位置から作品を眺めたときには、ただい くらか桃色がかった線としてしか認識されえない。
ところで作品の前に置かれたちゃぶ台には、数冊のスケッチブックも置かれていた。その一 冊は、作品を構成するために方々を破りとられたボロボロの漫画誌だった。コマ割りのなかで意味を持たされていた線たちは所与の役割を失い、穴だらけの誌面 からはストーリーを把握することはできない。しかし原形をとどめなくなった漫画誌は、もとの姿よりも遙かに魅力的だ。解体されることによってはじめて、平 凡なエロ漫画誌は欲望を与えるための道具という本来の目的から脱出し、新たなものへと変化することができるのだ。
ちゃぶ台に置かれたス ケッチブックのうち、もう一冊はさらに印象的だった。ありとあらゆる漫画から、誰かを呼ぶセリフのコマだけが切り取られ、一冊に貼り付けられていたのであ る。コマの大きさは揃えられ、かすかにエンディングさえつくられているので、一見普通の漫画作品のようにも見えるが、この作品はその程度のものではない。
漫 画のコマ割りが、時間的連続性を表現するものであることはいうまでもないが、作者はコマを切り離すことで、漫画上で構築されていた時間の整序関係を壊して しまったのだ。そしてさらに、切り離されたコマを一冊のスケッチブックに貼り付けることによって、あらたな時間的連関性を生成してしまっている。もともと の漫画のコマ割りが持っていた正しい時間的連続性は、ついに平面上の整序関係から解き放たれ、立体的で串刺し的な新たな時間的連続性のもとに再構築されて しまったのである。
以上のようにして作者は、同時多発的に二つの方法で漫画のコマ割りを解体してしまっている。なんとも、これは興味深い作品だ。


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